Friday, April 6, 2012

イノベーションとブリコラージュ




最近、多くの企業、それも日本を代表する様な大企業から、「イノベーションを加速するための組織開発、人材開発を手伝ってほしい」というご相談を頂きます。

で、色々な経営者の方、R&Dセクションの責任者の方とお話する機会があるのですが、どうもイノベーションというものについては、相当誤解が蔓延しているなあ、という印象を持っています。

これは恐らく、MBA的な、経営管理の側面が強い知識が普及したことの悪影響なのだと思うのですが、一言で言うと、「イノベーションは体系化できる」という誤解を持っていらっしゃ方が多いんですね。で、我々の様な会社に「その体系を教えてくれ」ということでいらっしゃるのです。でも、これは難しい。

スティーブ・ジョブズは、ビジネスウィークの記者から「あなたはどうやってイノベーションを体系化したのですか?」と聞かれて、「そんなことはしちゃだめだ」と即答していますが、僕もそうだと思います。

経営学の教科書とは逆に、人文科学全般の、あるいは自然科学における過去の大発見の過程は、イノベーションそのものをマネージすることは出来ない、ということを示唆しています。イノベーションが起こりやすい組織をマネージによって生み出す事は出来ますが、イノベーションというのは花の様なもので、それ自体を人為的に生み出す事は出来ないのです。我々が出来るのは、花が育ちやすい土壌と環境を整えて十分に栄養と日光を注いでやることだけです。

じゃあ具体的に、その体系化の中に、どんな誤解があるかということなのですが、大きなものの一つとして「用途市場を明確化してからイノベーションを目指すべきである」という仮説が挙げられます。確かに、経営学の教科書をいくつかめくってみると、開発の初期段階からターゲット市場、ターゲットユーザーを明確化することが、ある種のルールとして書かれていることが多い。しかし、こんなことをしたらイノベーションは起きません。歴史をひも解いてみればすぐにわかることで、過去の偉大なイノベーションは、本来意図した用途市場とは全く別の用途で、花開いているケースが多いのです。

例えば飛行機。現在と同様の原理で飛ぶ飛行機を発明したのはライト兄弟ですが、では彼らが飛行機の発明によって、人物や物資の運搬を行う今日の航空産業を思い描いていたかというと、実はまったくそうではないんですね。ライト兄弟は、飛行機の発明によって戦争を終わらせたいと考えていました。航空機が真に民主的な政府の手に渡れば、偵察の範囲も広がるために奇襲等も不可能になり、戦争の抑止機能になるだろうと考えたのです。しかし実際にはご存知の通り、飛行機は、米国による広島、長崎への原爆投下やベトナムへの枯葉剤散布等、人類史にも例を見ない様な残虐行為に用いられることになります。余り知られていないのですが、ライト兄弟は、最終的に飛行機を発明したことを悔いていたんですよね。

あと分かりやすい例で言えば蓄音器でしょうか。これはエジソンが発明したわけですが、エジソンは、蓄音器の用途として「速記」や「遺言の記録」といったことを考えていたようで、これが音楽産業という巨大な市場になるとは夢にも思っていませんでした。

うーん、じゃあ用途市場を明確化せずに、無駄なことでも許容して研究するべきなのか?ってことになるわけですが、さすがに、どんなものになるのか見当もつかない研究をやっていたら会社も持たないでしょう。ここで重要になるのが「何の役に立つのかよくわからないけど、なんかある気がする」というグレーゾーンの直感を大事にする心性です。これは人類学者のレヴィ・ストロースが言うところの「ブリコラージュ」です。

人類学者のレヴィ・ストロースは、南米のマト・グロッソのインディオ達を研究し、彼らがジャングルの中を歩いていて何かを見つけると、その時点では何の役に立つかわからないけれども、「これはいつか何かの役に立つかも知れない」と考えてひょいと袋に入れて残しておく、という習慣があることを「悲しき熱帯」という本の中で紹介しています。

そして、実際に拾った「よくわからないもの」が、後でコミュニティの危機を救うことになったりすることがあるため、この「後で役に立つかも知れない」という予測の能力がコミュニティの存続に非常に重要な影響を与える、と説明しています。

この不思議な能力、つまりあり合わせのよくわからないものを非予定調和的に収集しておいて、いざという時に役立てる能力のことを、レヴィ・ストロースはブリコラージュと名付けて近代的で予定調和的な道具の組成と対比して考えています。

レヴィ・ストロースは、サルトルに代表される近代的で予定調和的な思想よりも、それに対比されるより骨太でしなやかな思想をそこに読み取ったわけですが、実は近代思想の産物と典型的に考えられているイノベーションにおいても、ブリコラージュの考え方が有効であることが読み取れるのです。

この野性的でしなやかな知性=ブリコラージュの能力が、現代企業のイノベーションにおいても重要なんだと、僕は思います。

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