Sunday, March 31, 2013

4月生まれはなぜアタマがいいのか? 教育におけるマタイ効果について


どのようにすればアタマの良い子、運動のよくできる子を産めるか、あるいは育てられるか、という問題は世の親御さんたちにとって大変大きな関心の対象であるらしく、そのために膨大な量の情報がやりとりされていますよね。

よく聞かれるのは妊娠中には沢山鉄分を取った方がいいとかDHAが効くとか出来る限り薬は控えるといったことで皆さん、特に女性の方は大変な苦労をされているのですが、しかし実は、多くの人が実践して「いない」にも関わらず、確実に子供の成績や運動能力が高まる産み方がある、と言えば驚かれるでしょうか。

それは、子供を出来る限り4月に産む、ということです。

これは良く知られていることですが、日本のプロ野球選手やJリーグの選手の誕生月は、統計的な誤差として説明出来ないほどに著しく4月に近い月に偏っていることがわかっています。

例えばプロ野球選手名鑑2011年版によると、12球団への登録選手809人(外国人選手を除く)のうち、4月〜6月生まれの選手は248人で全体の約31%となっている一方、1月〜3月生まれは131名で16%しかいません。

あるいはJリーグの2011年オフィシャルブックによると、J1の18クラブ登録選手全454名の誕生月を見ると4月〜6月生まれは149人で全体の約33%であるのに対して、1月〜3月生まれは71人で16%と約半分しか居ません。

人口統計的には、誕生月による人口の差は殆ど無いことがわかっていて、それぞれの月の出現率はほぼ8.3%、四半期では25%となっています。従って、プロ野球/Jリーグともに4月〜6月生まれの登録選手が31〜33%になっているという事実は、確実に「何かが起こっている」ことを示唆しているわけです。

運動についてはわかった。では勉強はどうなのか?というと、こちらもやはり統計的には「デキル子」は4月〜6月生まれが多いことがわかっています。

一橋大学の川口大司准教授が、国際学力テスト「国際数学・理科教育動向調査」の結果を分析したところ、4月〜6月生まれの子の学力は他の時期に生まれた子よりも相対的に高いことが明らかになっています。詳しくは割愛しますが、川口准教授によると、日本の中学2年生(約9500人)と小学4年生(約5000人)の数学と理科の平均偏差値を生まれ月ごとに算出した結果、4月から順に月を下って3月まで、奇麗に平均偏差値が下がること、4月〜6月生まれの平均偏差値と1月〜3月生まれの平均偏差値とでは、およそ57程度の差があること等がわかっています。偏差値で5〜7ということは志望校のランクが一段違うということですから、これは下手をすると人生にインパクトを与える差になりかねないということです。

小学校一年生や二年生であれば、4月生まれと3月生まれで学力に差が発生するということは感覚的に納得出来ますよね。小学校一年生は7歳ということですから、4月生まれの子は月数ベースで誕生以来84ヶ月の学習を積み重ねている一方、3月生まれの子は73ヶ月の期間しかなかったわけで、凡そ13%ほど学習期間が短いということになります。学習量の累積が1割以上違うのであれば、それはそれで差があるだろうというのはまあわかりますよね。

ところが川口准教授の研究では、中学2年生と小学4年生でも同様に4月生まれと3月生まれで差があることがわかっています。中学2年生といえば14歳ということですから、誕生以来の累積学習月数は、4月生まれであれば168ヶ月、3月生まれであれば157ヶ月ということでその差分は7%弱にしかなりません。この差が、平均偏差値であれだけの差分につながるというのは学習理論の枠組みでは説明出来ません。

で、この差異は科学社会学における「マタイ効果」によって説明出来ると考えられています。科学社会学の創始者であるロバート・マートンは、条件に恵まれた研究者は優れた業績を挙げることでさらに条件に恵まれる、という「利益—優位性の累積」のメカニズムの存在を指摘しています。マートンは、新約聖書のマタイ福音書の文言「おおよそ、持っている人は与えられて、いよいよ豊かになるが、持っていない人は、持っているものまでも取り上げられるであろう」という一節から借用してこのメカニズムを「マタイ効果」と命名しました。

著名科学者による科学的文献には水増しする形で承認が与えられる一方、無名科学者にはそれが与えられません。たとえば、ノーベル賞受賞者は、生涯ノーベル賞受賞者であり続けますが、この受賞者は学界で有利な地位が与えられるために、科学資源の配分、共同研究、後継者の養成においてますます大きな役割を果たす一方、たとえば無名の新人科学者の論文は学術誌に受理されにくく、業績を発表することについて著名科学者に比べて不利な位置におかれる、ということです。

この「マタイ効果」が、子供たちにも作用しているのではないかという仮説は以前から教育関係者の間で議論されていました。例えば、同学年で野球チームを作る場合、4月生まれの方が体力面でも精神面でも発育が進み、どうしても有利な場合が多い。そのため、結果的にチームのスタメンに選ばれ、より質の高い経験と指導を受けられる可能性が高まります。人はいったん成長の機会を与えられるとモチベーションが高まり、練習に励むようになりますからこれでますます差がつく。

さもありなん。

この「マタイ効果」についての是非の議論は横においておくとして、これらの事実、つまり4月生まれは3月生まれよりスポーツも勉強もできる、という統計的事実と、その要因に対してマートンが唱えた仮説は、組織における「学習機会のあり方」について僕らに大きな反省材料を与えてくれると思うのです。

これは特に戦略コンサルティングファームや投資銀行といった競争の厳しい会社において顕著な傾向ですが、僕らは常に「飲み込みの早い子」を愛でる一方、なかなか立ち上がらない子を1年程度で見限ってしまうという、とても良くない癖を持っています。なぜそういうことが起こるかというと教育のためのコストが無限ではないからです。これは会社における教育投資でも、社会資本としての教育機会であっても同じことですが、僕らは「より費用対効果の高い子」に教育投資を傾斜配分してしまう傾向があり、そのため初期のパフォーマンスの結果によって、出来る子はさらに良い機会が与えられて教育される結果、更にパフォーマンスを高める一方、最初の打席でパフォーマンスを出せなかった子をますます苦しい立場に置いやってしまう、ということをしがちです。しかし、こういうことを続けていると「物わかりの早い器用な子」ばかりを組織内に抱える一方、噛み砕くのに時間はかかるけれども本質的にモノゴトを理解しようとつとめる子(つまりイノベーションの種子になるアイデアを出す人)を疎外してしまう可能性があります。そして、その様な「いい子」ばかりになった組織は、やっぱり中長期的には脆くなってしまうと思うのですよね。

4月生まれの子は成績もいいしスポーツも出来る」という、発生学から考えればとても不自然な事実は、僕らに、人を育てるに当たって最初期のパフォーマンスの差異をあまり意識せず、もう少し長い眼で人の可能性と成長を考えてあげることが必要だ、ということを教えてくれるように思います。考えてみれば、僕自身だって電通に入って数年は七転八倒していたわけで、そんな中、将来に対する不安を吐露した先輩から「山口は大丈夫。大器晩成なんだよ」と言ってもらえたことがどんなに救いになったことか。自分がかつての先輩たちのように、なかなか立ち上がれない若手に対して同じ様な言葉をかけて待ってあげられているかどうか、改めて考えてみたいと思います。

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