虚数の音楽としてのビル・エバンス

まず虚数と言われて定義がわからないという人へ。自分も含めて文系の人には、自浄すると、おっと違った、二乗すると「-1」になるという数値のことだと捉えられているけど、これは少し乱暴な定義で、もう少し正確にいえば「二乗するとゼロ未満の実数になる複素数」ということになる・・・、んじゃないかな? 間違ってたら誰か指摘して下さい。

で、その虚数が音楽とどう関わるのか、と思うわけだけれど、ちょっと待ってね。上に述べたのは代数的な定義だけれど、これを幾何学的に定義すると音楽との関わりが見えてくる。

まず西から東へと向かう一本の直線を思い浮かべて欲しい。これを実数の軸、実軸と名付けよう。そして、あなたがいまいる点をゼロと名付け、東に向かうと1、2、3と数値が増え、西に向かうと−1、−2、−3と数値が減っていくと考えてみる。このような軸上では、-1をかけることは、絶対数値をそのままにして軸を180度回転させるということになる。5という実軸上の位置があったとして、それに「-1」をかけると-5になるわけだけれども、これはゼロの点から東側に5目盛りのところにあった貴君を、180度切り替えて西側に5目盛り、つまり-5のところに移すということになる。

虚数を乗じるというのは、この転換を90度行う演算、ということになる。どうしてかって?だって二回続けるとマイナスになるのだから。マイナスを180度のひっくり返し、と考えれば、虚数をかけるというのは90度のひっくり返し、ということになる。

でね、ながながと説明してきたけど、音楽の表す表情を「明るい、元気」を東側=+の側、「暗い、消沈」を西側=ーの側とすれば、そのどちらでもないという領域にこそ、本当の意味で「よい音楽」の領域があって、その筆頭はやっぱりビル・エバンスのこれであって、これはやっぱり、プラスでもマイナスでもない音楽、つまり虚数の音楽ではないかと思ったわけですよ。別に二回聞いてもマイナスにならないんだけどね。


ということで、これほど「明るいのに悲しい」という曲もないんでないかなあ、と。
とても哀しい曲です。ビル・エバンスの中ではあまり人気のある盤ではないですが、僕は晩年ならではの「締念」が横溢していて、とても好きなのでもし興味があれば。